大人の童話館

自作の創作童話やエッセイなどを投稿していきます。

間違えたユウレイ6 - やさしい言葉

太郎の怖がりぶりを見て、あわてたユウレイ。

「嘘よ、嘘、嘘。今時ね、そんなのいないって。安心しなさい」

と、言って安心させようとする。

 

「だからさー、なんでここにいるの?」

「わたし、間違えちゃったのよ。

てっきりこの家だと思ったんだけどなー。

わたしって、ほら、生きているときから方向音痴でね。

迷惑かけたかしら」

と、ユウレイが言う。

 

ふと、気づくと、ユウレイがちょっとやさしい言葉使いになっている。

 

「うん、迷惑。ものすごーく、迷惑。ボク、恐い思いしたんだからね」

「変ねえ、なんで、よしおさんじゃないの? なんで間違えちゃったの?」

と、言うと、ユウレイはさびしそうに微笑んで、下を向いてしまった。

 

そんなユウレイの顔を見ると、

太郎は、ちょっぴりかわいそうになってきた。

 

たとえユウレイでも女性には違いない。

小学校四年生の十さいとはいえ、太郎も男だ。

 

一人の男として、女性のそんな姿を見るのは、

やっぱり、せつない感じがするのだった。

 

太郎は、やさしい言葉の一つも言わなければと、

あれこれ考えてやっと言った。 

 

「そうか。よしおさんって人と会いたかったんだね」

一生懸命に考えた太郎。

 

ようやく思いついた、やさしい言葉と思われるやつをやった。

「そうよ。だからこうやって、遠くからやってきたのよ。

わたしたち、いつまでもずっと、

一緒にいようねって約束したんだから」

「ふーん、ずっと一緒にね」

 

「それなのに、なんで・・。

わたしって、死んでも方向音痴は直らないわね。

ああーもうっ、やだやだ」

と言うと、ユウレイは両方の手でこぶしをつくり、

それで自分の頭を二三度、ポンポンと叩きはじめた。

 

それが太郎には、おかしくておかしくて、ついつい、

「ハハハッ、おもしろーい」

と、右手の人差し指でユウレイを指しながら、

大きな口を開けて笑ってしまった。

 

ユウレイはじっと太郎を見ていた。

「笑わないの。怒るわよ」

と言う。

 

でも、太郎の気持ちはゆるんだままだった。

笑いの中、太郎のやさしい言葉は、

どこかにぶっ飛んでいた。

 

そこでまたまた、

「でもさ、そのよしおさんって人だけど、死んじゃった人のことなんか、

いつまでも覚えてないんじゃないの」

と、後から考えて、

これだけは言っちゃあいけなかったことを平気で言ってのけた。

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