5、黒ネコニャン太の物語 - ふさいだ気持ち
突然頭に割り込んできた犬のシロ。おかげで、嫌な気持ちが胸の中で広がった。頭で考えたことが胸のあたりに移動して、熱い炎をすっかり消してしまった。
くさくさしてきた。いらいらしてきた。ふさいだ気持ちが心を覆う。でも、顔になんか出さないから、われらネコ族は偉い、とニャン太は思う。
それでもこのままいくと、シロのいる三丁目になる。だんだん足取りが重たくなってきた。とうとう道の上で止まってしまった。
ふさいだ気持ちが身体に居座って、うきうきした気分は家出していた。石ころみたいな重たいやつが、下っ腹あたりに居すわっている。
はれやかな気分はもどりそうにない。
ニャン太は、近くの家の屋根へとかけ上がった。逃げたのではない。そうではないけど、やっぱりシロが嫌だった。
屋根のてっぺんまで歩いていくと、ペタンとしゃがんだ。大きなあくびを一つした。ユラーリユラーリとシッポを振った。
ペロペロと毛づくろいを始めた。ネコとはいえど紳士のたしなみは心得ている。
見上げると青い空が広がっている。お日様が顔を出して、ポカポカしている。屋根の上はあったかだ。ふさいだ気持ちを癒すには最高だ。
ところどころに白い雲が退屈そうに浮かんでいる。正面の細長い雲がサンマに似ている、とニャン太は思った。
たちまち食いつきたくなった。口の中につばきがたまる。それがヨダレとなって流れ出てくる。ペロリと舌でぬぐった。大きく口を開けてみた。
けれどもやっぱり雲じゃあ食べられない。ニャン太はあきらめるしかなかった。
と、同時に、食い意地がふさいだ気持ちを追いやっていた。