5、立派な森のかわら版 - やさしい人間なんて
具合の良くない子タヌキのター坊のお母さん。
「お母さんの具合は、どうだい?」
と、チュウ助が聞くと、ター坊はニコニコしながら、恐ろしいことを云った。
「はい。実は、里のやさしい人間のおじいさんおばあさんから、ご飯をもらっているのですが、それがいいようで、近ごろ、ずいぶん元気になってきました」
「なんだって!」
ター坊からやさしい人間と聞いて、チュー助の顔色が変わった。
立派な森のかわら版によると、この世で人間ほど、アホな生き物はいないとのことだ。それが、やさしい人間とはどういうことだ。
なぜって、人間は、自分たちの暮らしをよくしようとして、かえって自分たちのすみかをせっせと壊している、というのだ。
自分たちがバカでかい機械でもって山をけずっておいて、それでもって、やれ緑が少なくなったとか、自分たちでさんざん汚しておいて、やれ川が汚くなったとか言って嘆いている。
そんなに緑が好きなら、山をけずらなければいい。木を切りさえしなければ、緑なんぞ腐るほどあるのに。
きれいな川がよければ、汚さなければ川はいつもきれいなままだ。そんな簡単なことがまるっきり分からないのが、人間というアホな生き物である。
それが、やさしい人間なんてと、チュー助は思うのだ。
さらに、こんなアホとはつき合ってはいけない。なぜなら、こちらまでアホになってしまうからだ、と森のかわら版はたいへん厳しい。
厳しいながら、チュー助は森のかわら版の論調には大賛成である。結論するに、やはり人間とは、アホな生き物であるというのはまったく正しいと思っている。
それにも関わらず子ダヌキのター坊は、そのアホな人間からご飯をもらっているというのだ。それも、一度や二度ではないらしい。
もし、アホな人間から頭をなでられたらどうするのか。アホが移ってしまうではないか。そうなったら大変だ。少年を正しい道へと導くのは大人の勤めである、とチュウ助は大まじめに思った。