1、浜辺の子猫たち - お腹を空かせた子猫たち
入り江の水路は、ハゼつりの絶好な場所です。
そこは漁船を海から上げておくために、水路に向かって斜めにコンクリートで固めてあるのです。
ボクは、その漁船の間からつり糸を投げて、腰を下ろしました。
しばらくしてから、ふと気づいて、ボクは振り向きました。
小さな子猫がそぉ~と、ボクが釣り上げたハゼを狙って、バケツに近づいて来るのです。
子猫は、ボクと眼を合わすと、あわてて逃げ出します。
しかし、ボクから少し離れると、チョコンと行儀よくその場所に座り、またこちらを見つめているのです。
「なんだ、お前、お腹空いているのか?」
ボクは釣ったハゼを一匹バケツから取り出すと、腹を空かせた子猫の方に放ってやりました。
汚れて黒みがかったようなコンクリートの上で、ハゼが驚いたようにピチピチと跳ねておりました。
すると、お腹を空かせた子猫は小さな前足でハゼを捕まえ、ツメでしっかり押さえると、大急ぎでムシャムシャと食べはじめました。
「ハハハっ、おまえ、よっぽど、お腹へってたんだなぁ」
お腹を空かせた子猫を見ていて面白くなったボクは、またバケツからもう一匹釣ったハゼを取り出して、子猫に放ってやりました。
さて、そんなボクと子猫の様子をどこかで伺っていたのでしょうか。同じようなまだ小さなお腹を空かせた子猫たちが、次から次へと現れて来るではないですか。
一匹、二匹、三匹・・、とうとう子猫たちは、六匹にまで増えてしまいました。
黒いのや白っぽいのや、マダラ、斑点などさまざまな子猫たち。いったい、これまでどこにいたのかわかりませんが、ボクはそんな子猫たちを見ていて、心がウキウキとしてきました。
「そうか、みんな、お腹すいてるんだな・・」
バケツから取り出したハゼを放ってやると、お腹を空かせた子猫たちは大はしゃぎして取り合いをはじめます。
なかでも一番小さい子猫は、ようやくハゼを口にくわえると、取られまいとして急いで逃げ出します。
でも、すぐに他の子猫たちに組み伏せられてしまい、せっかくの獲物が奪われてしまうのでした。
おやおや、これでは不公平と思ったボクは、一番小さな子猫にもちゃんと分け前がいくようにと、バケツのハゼを次から次へと、惜しげもなく放ってやることにしました。