大人の童話館

自作の創作童話やエッセイなどを投稿していきます。

3、愛犬ポポの物語 - 昔の犬の散歩は

 

ぼくの住んでいる某市のはずれは、その昔は鬱そうたる山の中でした。下れば田んぼ、上がれば畑、斜面はほとんど雑木林、それらに囲まれて、わずかにある民家は陸の孤島といった感じでした。

 

田んぼの両側には川が流れ、そこには春になるとザリガニやドジョウなどがわんさか。また田んぼへと水を流すために作られた小さな用水路は、まさにメダカのガッコウ。同じ某市でも都心部とは違って、ぼくたちが住んでいた所はよっぽど田舎の方だったのです。

 

そんな日本の原風景たっぷりなところで育った姉とボク。犬の散歩も今とは打って変わったものでした。今のように犬を散歩させるとき、必ずリードで繋いでいるなんてことはしないのです。もちろん首輪はありましたが、その首輪からリードを外して、“どこへでも行って来い”といった感じです。

 

リードを外してやると、犬は得たりとばかりに、あっという間にすっ飛んで行ってしまいます。とは言っても周囲は雑木林。立ち木やその下草を力強く身体で押し分けグイグイと押し入って行き、その姿は見えなくなってしまいます。 ぼくのポポもそんなことで、リードで繋いでいるのは、家から出て民家が途切れるまで。

 

ぼくはといえば、そんなポポなど放っておいて、やっぱり好き勝手に歩いていくのでした。でもしばらくすると、何処からかポポがヒョッコリ顔を出しぼくの姿を確認するのです。

 

そして、ちょっとだけボクを見ると大きく尻尾を振りながら、また茂みを掻き分け、ボクから逃げるようにどこかへ突っ走って行ってしまうのです。そんなことを繰り返しているのが、ぼくたちの時代の犬の散歩というものでした。

 

人間が勝手に歩いていくのを、放たれた犬があっちへ行ったりこっちへ行ったりしながら着いて来るといった感じ。こんな感じですから、実のところ犬の散歩なのか人の散歩なのか分からない、そんな時代の犬の散歩なのでした。

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