黒ネコニャン太の物語14 – やさしい笑顔
やさしい笑顔のおばあさん。
「ニャーーン」
と、ニャン太がおばあさんの顔を見ながら猫の声をかける
と、ニッコリ笑顔が上からニャン太をのぞき込む。
そのまましゃがんだおばあさん。そのひざに前足をかけて、グイッとからだを寄せながら鼻を当てて、あいさつしようとしたニャン太。だが、ヒョイとおばあさんに抱っこされてしまった。
「ニャンちゃん、何してたの・・・」
犬のシロとケンカしようとした・・、とは言えないニャン太。抱っこされながらおばあさんの顔をまじまじとながめた。なぜか安心する。なぜかうれしい。なぜか、眼に涙がたまる。そうして、なぜか自然に、のどがゴロゴロなりだした。
「ニャーン!」
おばあさんの手がニャン太の頭をなでる。その手を払うようにからだをよじるニャン太。
顔を近づけ、おばあさんの鼻に自分の鼻を当ててみようとこころみる。
なかなかうまくいかない。
「まあ、まあっ、今日はどうしたの。甘ったれさんだねぇ」
ニコニコ笑うおばあさん。
ニャン太が思うに、どうも人間の笑い顔はひと通りではないようだ。たけしなんぞは、いつもニッと笑う。笑う方が短い。おばあさんのは違う。いつまでもニコニコと笑って笑い方が長い。
たけしのニッは、要は自分がよければそれで満足なんである。相手がニャン太であろうがなかろうが、そんなこと知っちゃいないって感じだ。
おばあさんのニコニコにはちゃんと相手がある。その相手というのはニャン太である。ニャン太に向けるニコニコである。そうしておばあさん自身も満足してよろこんでいるようだ。
この違いはなんだ。顔に刻んだ、シワの数だけの問題じゃない。
自分だけがいいたけしのニッと、相手をよろこばせるニコニコで自分もよろこんでいるおばあさん。これは絶対に、“同じ笑い顔”なんかじゃあない。
だって、たけしのニッは自分勝手なだけで安心できない。何をされるかわからない。ちと、不気味でさえある。
おばあさんのニコニコはちがう。ホッとする。安心する。気持ちが和む。 だから、ニャン太は、安心して抱っこされていた。長いシッポがユラユラ揺れる。