大人の童話館

自作の創作童話やエッセイなどを投稿していきます。

12、迷い込んだ真っ白でキレイな文鳥 - みんなの幸せを願う

 

ピンク色のクチバシをパクパクと動かせながら、

一生懸命に話しかける白い文鳥。真剣な眼差しで

訴えかけるように、

「本当に自分の幸せを願うなら、まずはみんなの

幸せを願うべきじゃないでしょうか・・」

と、言います。

 

「うん、うん。そうだね」

と、眠たそうな眼をこすりながら答える一平。

 

机の上の時計を見ると、もう、夜の11時を

まわっていました。

いつもならもう寝ている時間です。

 

「でも、ありがとう。わたし、あなたに聞いて

いただいて、すっきりしました。明日の朝、

やっぱり帰ることにします。

ケンちゃんを、悲しませるわけにいきませんからね」

 

「えっ、帰るって・・。そっ、そうか・・、

そうだよな。きっとケンちゃん、心配しているよ。

帰ったほうがいいよ」

 

「はい。そうですよね」

シロは、うれしそうに羽をパタパタと動かして

いました。

 

さっきまで涙でいっぱいだった黒くて丸い二つの

目が、しっかりと一平を見つめていました。

その目が、キラキラと輝いていました。

 

「お前、お腹、すいてないの? 人の幸せを

願う前に、やっぱり自分のお腹だぞ」

「はい、確かにそうですね、そういえば少し」

 

一平は机の上にあったトーストを、半分にちぎっ

てやりながら、

「これ、美味しいんだよ」

と言うと、ちぎったトーストの半分の方を自分の

口に入れていました。

 

「はい、じゃ、わたしもいただきます」

シロのピンク色のきれいなくちばしが動き

ました。そして、半分にちぎったトーストの片方

をツツン、ツツンと、かみつくように突いていました。

 

小さくちぎられたトーストの切れはしが、くちばしか

らはみ出ていました。ようやくそれを飲み込むのを

待って、一平はニコリとしながら、

「うまいか?」

と、シロに聞きました。

 

「ええっ、とっても」

一平を見上げたシロのくちばしが、大きく開いて

いました。

 

一平にはその顔が、やはりニッコリと笑っている

ように見えました。

 

一平は、明日の朝、文鳥のシロがすぐに帰れるよ

うに、少しだけ窓を開けておいてやりました。

 

そして、部屋の明りを消してベッドにもぐり込むと、

また、シロに顔だけをむけていました。

「きっとケンちゃん、お前がいなくなって、

すっごく、さびしがってるぞ」

 

「ありがとう。あなた、やさしい人ですね。

わたしはあなたの幸せを願っています」

 

薄っすらとした明かりの部屋の中、シロがうれ

しそうに、チィチィチィと鳴いていました。

 

つぎの朝、一平が目をさました時には、

もうシロはいませんでした。

 

一平は、窓をいっぱいに開けました。

ひんやりとした朝の空気が、一平のからだを包

み込みました。明るいお日様が顔をだしてい

ました。今日も暑くなりそうです。

 

一平は、大きなあくびを一つすると、

「いやなことがあったら、また来いよ」

と、今はもういない文鳥のシロに、

ニッコリしながらつぶやいていました。  

おしまい

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