3、のろまのドン太はカタツムリ - チョウ子の白い蝶の羽
辺りはお日様がいっぱいだった。だけど、
雨は一晩中降った。
おかげで、花も葉っぱも、まだぐっし
ょりと濡
れている。
葉っぱの先についた雨のしずくが、
キラキラと
お日様をはね返す。
そよそよと風が吹くと、プルプルと
ふるえる。
とうとう重みに耐えられなくなった
雫が、ポタリ
と落ちる。
落ちた先が、チョウ子の白い羽の
上だった。
「きゃっ、冷たい」
小さく叫んだその拍子に蝶の羽を
パタパタやった。
白い蝶の羽がお日様に輝いた。
それがドン太の目に鮮やかに焼きつ
いた。きれいだなぁと思ったドン太は、
まじまじとながめた。
ふと気がつくと、チョウ子の美しさ
の大部分は、
この蝶の羽のためだった。
この美しい蝶の羽がチョウ子を大空へ
と連れて行く。
自由な空へと舞い上がらせる。
この小さな羽は、大きな空をたたみ込ん
でいるのだ。
「空の上って、どんなかな?」
高鳴る胸をおさえてドン太が聞いた。
「風に乗ってふわふわ飛ぶの。この羽でね」
ゆっくり開いた白い羽が、背中の後ろで
パタパタ動く。やっぱりきれいだ。
ドン太は、うらやましそうにながめた。
「気持ちいいだろうね。ねえっ、空の上の
また上って、どんなかなぁ?」
「高く上がれば上がるほど、下のもの
がみんな小さくなるわ。それに遠くの
方までずっと見渡せるわ」
「森のむこうまでもかい」
「ええっ、森のむこうまで、ずっとよ」
ドン太は、わくわくしてきた。まるで、
自分が空を飛んでいるような気持ちに
なってきた。
ドン太は、花びらの間から大空を仰いだ。
キラキラとその目が輝いていた。
葉っぱのしずくにも負けないほどだった。
「でもね・・」 ともじもじしながら、
モンシロチョウのチョウ子が口を開いた。
ドン太は夢から覚まされた。
「わたし、あなたがうらやましいわ」
と、ポツリとチョウ子がつぶやくのだ。
ドン太はポカンと口を開けた。
チョウ子がドン太を見つめている。
「どうしてさ。ぼくなんかに」
と、やっとのことでドン太が言った。
「だってあなたは、空なんか飛ばな
くたって生きていけるし、花から花
へと動き廻らなくたって、食べて
いけるわ。
雨が降ったって、いつもお家があ
るからだいじょうぶ。あのいやな鳥
からだって守ってくれるわ」
「こんな家、みっともないだけさ」
「そんなことないわ」
チョウ子が激しく、首を横に振った。
「あなたは、この家の中で、いろん
なことを考えたり夢を見たりできるわ。
わたしは、この羽
があるから、空を飛べるけど、それだけよ」