黒ネコニャン太の物語12 - 逃げ足の速いネコ
白の怖ろしい顔がニャン太を睨む。そして、
「ワンワンワン! ワンワンワン!」
と、けたたましく吠える。
うなり声をあげて飛びかかろうとするたびに、シロのクサリが、ガチャガチャなった。睨んだ眼つきと口から見せた牙は、恐いなんてもんじゃあない。垂れたよだれもいっそう凄みを増している。その声。その顔。やっぱり、シロは恐かった。
恐いと思うとよけい眼が離せない。ニャン太は、おずおずと後退りしていった。ゆっくりと眼をそらした。すると、一目散に逃げ出した。逃げるとなると力が入った。飛んでくように足が速い。不思議だ。シロがますます、すごい勢いで吠えだした。その声だけがニャン太を追っかけてきた。
走った後のニャン太は、肩で息をしていた。どっと疲れた。はっきりいって恐かった。フラフラしながら少し歩いた。ちょっと立ち止まり、ペロペロと前足をなめた。そのまま道にペタリとしゃがむ。後ろ足を持ち上げて、お腹のあたりをペロペロやった。これでようやく、気持ちが落ち着いた。
シロはまだ吠えている。
(ふん、しつこいやつだ)
それでも、だんだん敵も疲れたらしい。途切れ途切れになってきた。そうして、ついにむなしく、冬の空に吸い込まれていった。
ニャン太は、縄張りを歩いていた。長いシッポがだらりとたれて、歩くたびにゆらゆら揺れた。ニャン太の頭には、もうとっくにシロなどなかった。いやなことはさっさと忘れる。それがニャン太の得意技だった。