2、浜辺の子猫たち - 子猫が群がる
空腹のためか、ボクのバケツに子猫たちが群がります。
バケツのハゼは、あっという間に無くなってしまいました。
放ってやるハゼがなくなると、一匹、二匹、三匹と子猫たちが近くに群がり、ボクの顔を見上げながら、「ニャ~~ン」と甘えるように鳴くのです。
ボクは、群がる子猫の顔を見つめながら、
「よし、ちょっと待ってろな、いま、釣ってやるからな」
と言って、一匹の頭を軽くポンポンと撫でてやりました。
ボクがエサを代えるためサオを上げて糸を戻すと、魚がかかっているかと思ってか、いっせいに子猫たちが群がるのです。
「待ってろ、待ってろ」と、ボクはそんな子猫たちに話しかけながら、針に新しいエサをつけてからサオを振り糸を投げ入れていました。
合計で六匹もの子猫たちは、もうボクから離れようとしませんでした。
懐かれてしまったと思った時でした。その時、ボクははじめて気づいたのです。
少し離れた場所の物陰から、たぶん子猫たちの母親らしき猫が厳しい目つきでじっとボクを見つめていたのです。
「大丈夫だよ、いじめたりしないよ。お前もお腹ペコペコなんだろ」
ボクはたった今釣り上げたばかりのハゼを針から外すと、母猫めがけてポーンと放ってやりました。
うまいこと母猫の少し手前に落ちたハゼは、固いコンクリに落下したにも関わらず、ピチピチを跳ね回っておりました。
そんなハゼをじっと見つめるだけで、なぜか食べようとしない母猫。
そうこうしている内に、六匹の子猫たちがいっせいに群がると、跳ね回っているハゼの取り合いをはじめてしまいました。
そんな子猫たちの様子を、やっぱり母猫は黙って見つめているだけ・・。
ボクが帰ろうとして立ち上がった時でした。
母猫がボクを見つめて、「ニャぁ~~ン」と鳴くのです。それはまるで母猫が、「ご馳走さま、ありがとう」とでもボクに言っているかのようでした。
「いいよ、いいよ」
ボクはそんな母猫の顔を見つめ返しながら、心の中で返事をしてやりました。
帰りのボクのバケツは、おかげで空っぽでした。でも、いいんです。ハゼは誰でも割とカンタンに釣れる魚だからです。
おわり