大人の童話館

自作の創作童話やエッセイなどを投稿していきます。

10、迷い込んだ真っ白でキレイな文鳥 - 涙があふれるシロ



父さんが働いているから大丈夫だよと言

いたかった一平。

しかし、文鳥のシロの勢いに気圧されて、

黙って聞いていました。

 

シロが真剣な顔をして、

「食べ物がなくなってしまったら、人間たちはどうす

るんだろうって。だって、いくら人間だって食べな

りゃ生きていけないでしょうに。

それじゃ、あまりにも可愛そうだって、

ミーチェは心配しているんです」

と、言いました。

 

一平は、ネコは、もっとそっけないものだと思って

いました。それがエサをとらないご主人たちを

心配しているとのこと。

これにはまったく意外というか、

驚いて声も出せませんでした。

「と、いうのも、ミーチェはもともとノラ猫だったんですよ。

それで、ゴハンが食べられずに大変に苦労したのです」

と、文鳥のシロが続けて一平に話しました。

 

ノラ猫時代のミーチェは、一週間もゴハンが食べられ

ないことがあったとのこと。そこで、ネズミやスズメ、

なかにはトカゲなんかも捕まえて食べて、ようやく飢

えをしのいだことがあるのだそうでした。

 

「そんな大変な思いをご主人たちに味合わせてはいけ

ないとの思いから、ミーチェなりに必死なんですよ。

わたし、その話をミーチェから聞いた時、思わずもらい

泣きをしてしまいました」

と、言うシロ。

 

「ふう~ん。苦労したんだね」

と、うなずく一平。

 

ふと、気がつくと、ついさっきまで、ビォォービォォー

と吹いていた風がやんで、辺りは、シンと静まりか

えっていました。窓のあみ戸越しに、ヒョッコリと

丸いお月様が顔をだしていました。

 

一平は、いつ風がおさまったのだろうと思いながら、

網戸越しにお月さまをながめていました。 

 

シロは、しばらくの間、そんな一平の顔を見上げ

ていました。一平があきもせずに、ぼんやりとお月さ

まに顔を向けていると、シロはそんな一平の気を

引くように、チィチィチィと鳴いていました。

 

「ミーチェは、本当にご主人たちを心配してい

るのです。それで、思ったそうです」

シロの声に、一平はふり向きました。

 

シロは、ピンク色のくちばしを少し開いたまま、

ブルブルとふるわせていました。

キラキラと輝く黒くてまん丸い二つの目が、

じっと一平を見つめていました。

 

「そっ、それで、ミーチェがなんだっけ」

「ぜひとも、エサのとり方を教えてあげなけれ

ばいけないって」

さっきから呆気にとられっぱなしの一平。

目から涙があふれているシロに向かって、

「ネコが・・、かい?」

と、もうワケが分からんといった顔で聞き返した。

 

「はい、ミーチェが、です」

と、クチバシをしゃくり上げるように答えるシロ。

「ふーん、ネコが、ねぇ」

「ミーチェだってもう、昔のネコじゃああるまいし、

ネズミなんかとりたくないんですよ。だけど、

ご主人たちに教えるために、わざわざ遠いとこ

ろまで行って、やっと捕ってきたんですよ」

 

「うん、うん。ごくろうさま」

「そして、こうやってとるんだよって、

ご主人たちに、ちゃんと見せてあげたそうです。

ところがですよ・・」

そこまで言うと、少し口ごもるシロ。

やはり、その目から涙があふれている。

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