大人の童話館

自作の創作童話やエッセイなどを投稿していきます。

4、のろまのドン太はカタツムリ - 前へと進む

 

ドン太は、空を飛んでみたいという夢を持っていた。

でも、自分はカタツムリだから、ムリと諦めていた。

 

夢は夢であり、憧れはとどかないものとだとも思う。

だから、チョウ子の白い羽がうらやましくて仕方

なかった。

 

ところが、肝心のモンシロチョウのチョウ子は、

不思議なことを言う。それは、

「わたしもあなたのような、ステキなお家がほ

しいな」  

とのことだ。

 

しかもチョウ子は、ドン太の背中にある殻を見て、

羨ましそうに言った。

 

ドン太にすれば、こんな殻など重くて邪魔だと思

っていた。

 

もちろん、チョウ子にほめられてうれしかったが、

ドン太にすれば、ちょっと不思議な感じもしていた。

 

チョウ子はドン太に笑顔を見せて、再び空へと舞い

上がっていった。

「また、会いましょうね」  

と、チョウ子の声が聞こえた。

 

ドン太が顔を上げて見ると、白い羽がキラキラと光って

いた。やはし、ドン太はチョウ子がうらやましいと思った。 

 

ドン太もチョウ子のように、大空を飛んでみたかった。

と、ドン太の心に火がついた。

 

その火がドン太に「前進」と囁いていた。

夢は諦めないで追いかけるものだ。

希望は自分で掴むものだ。

 

勇気を出して、一歩一歩前進するんだ。

そう心に思うと、なぜか知恵が後からついて

くる。

 

「そうだ!」  

と、ドン太は思い至った。

「木に登ればいいんだ。それも、丘の上の、一番

大きな木に登るんだ。天辺まで登るんだ」  

 

ドン太はカタツムリだから、木に登ることは得意

だった。

 

ゆっくりでもかまわなかった。

少しずつでもかまわなかった。

とにかく天辺まで登るんだ。

そこはもう空の上だから、遠くまで見渡せるんだ。

 

「空を飛んだのと同じじゃないか」  

ドン太は目を輝かせた。心はもう空の上にあった。

そこは明るくて暖かくて広々としていた。

ドン太の胸が高鳴っていた。  

 

ドン太に目標ができた。丘の上の一番大きな木まで、

前進するんだ。ゆっくりとでも真っ直ぐに進むんだ。

 

そして、ドン太は、何日もかかって、ようやく丘の上

の大木に到着した。

 

そして、ゆっくりだけど確実に一歩また一歩と、

大木に登り始めた。

 

途中で雨や風に遭っても、前に進むことをやめなかった。

雨水を飲み、葉っぱをかじりながら元気をつけた。

 

そして、前進し続けた。

前進して、前進して、とうとう木に登り切った。  

 

真夜中だった。周りは真っ暗だった。でも

見上げると、無数の星が輝いていた。

 

少しずつ東の空が紫色に染まってきた。それが

オレンジ色に変わり、遠くの山からお日様が顔を

出した。

 

朝日が昇ってきて、それドン太を照らした。

ドン太は朝日を仰いだ。  

 

笑顔で「やったぁ」と叫んだドン太。

夢はかなえられるんだ。希望は実現できるんだ。

 

だから、前進するんだ。前進して、前進して、

前進するんだ。 「これが生きるってことだ」 と、

ドン太は心の中で一人叫んでいた。

おしまい

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