大人の童話館

自作の創作童話やエッセイなどを投稿していきます。

6、立派な森のかわら版 – 少年を叱る大人

 

 

チュー助はター坊に向かい、毅然として言った。

 

「ター坊、君は、人間などからご飯をもらうのをやめなさい」

ター坊を叱るチュー助。その声は怒るような、責めるような調子だった。

 

「ええっ、どうしてですか? ぼくの知っている人間のおじいさんやおばあさんは、本当に、すっごく、やさしい方たちですよ・・」

 

「ダメ、ダメ、そんなこと云ったって。森のかわら版に、ちゃんと書いてあるのだからね」

と、ター坊を叱るチュー助の声は、いたって厳しい。

 

「もし、君の頭でもなでられようものなら・・・。どうなるのだい。こんな親不幸なことってないじゃないか。いいかい、人間とつき合ってはいけないよ。いい人間なんか、いないのだからね。アホばっかりだ」

 

じっとター坊を見つめて叱るチュー助。彼に叱られて項垂れているター坊。だが、ここは心を鬼にして言うのが大人の義務だと思うチュー助だった。

 

「人間のアホが君に移ったらどうするのだ。森のかわら版にちゃんと書いてあるからね。ター坊、お母さんに悲しい思いをさせてはいけないよ」

 

「はっ、はい。じゃ、そうします」

すでに涙にぬれたター坊の顔が、クチャクチャになっていた。

 

ター坊を叱るのはちょっとかわいそうだが、これも未来ある少年のためだ。叱るのは大人の義務だ。それに、これでター坊のお母さんも、きっと安心するのに違いない。

 

そう考えるとチュー助はうれしくなった。良いことは、やっぱりしなくてはと大満足だった。

 

足取りも軽く歩いていくと、花さく丘にピョン子がいる。

 

コンコン村のキツネ村長の息子との結婚をひかえている、あの耳長ウサギのピョン子である。

 

たくさんの花に囲まれて、なにか物思いにふけっている。

 

その姿がじつに美しい。花なんかに負けてない。

 

「ピョン子さん!」

チュー助は声をかけた。幸せなピョン子にたった一言、おめでとうと言いたかった。

「森のかわら版で読みましたよ。お幸せに!」

 

けれども、チュー助に向けたピョン子の顔は、なぜか沈んでいる。

やけに表情が暗い。

 

「森のかわら版で?」

と、浮かない顔のピョン子が聞き返した。

 

「ええっ、そうです」

「あんなもの、なにもかもウソっぱちだわ!」

 

「なにを言っているのですか。大変に権威のある、りっぱな森のかわら版なのですよ」

 

「だって、ウソばっかりだわ!」

と言ったピョン子の目から、涙があふれ出ていた。

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