黒ネコニャン太の物語16-恋する猫
ニャン太は、まじまじと、ポーチを見つめた。怪獣のくせに恋だなんて、世にも不思議なことがあるものだ、と思う。
「こいつは驚いた。どこの誰だい。怪獣を恋のトリコにした女性は?」
「おまえなんぞに、教えてやらないよー」
「へへっ、もったいぶってらー」
「そうさ。もったいない。それほど、美しい女性だ」
「わかった、怪獣・・じゃなかった。ポチ君!」
「ポーチだ。ちゃんと、伸ばせって・・」
「では、ポーチ君。君の恋する女性を、ぜひとも、ボクにも教えてくれないか」
「・・どうしても、聞きたいか?」
横目でニャン太をのぞき込むポーチ。ニャン太を観察している。教えたがってるんじゃな
いか、と思うニャン太。どっちでもいいよと言わんばかりに顔をそむける。
「どうしても聞きたいのなら、特別に教えてやろう。友達だからな、オレとお前は・・」
“友達”と“オレとお前”のところだけ、やけに力が入る。
「オッ、オレ、ミケ子と結婚する」
「ほんとかい? そりゃ、すごいや」
「ほんとだとも」
「怪獣のくせに、ミケ子と交際していたなんて、オレはぜんぜん知らなかったぞ」
「誰が、交際しているなんて言った」
「だって、結婚するっていったじゃないか」
「これから交際を申し込んで、愛し合って、そうして結婚するって話だよ」
「なんだかよくわからん」
「わからんで、結構だ。んでだ・・」
一息ついて、前足をペロペロする怪獣のポーチ。フサフサシッポが、右に左にヒョイヒョイ揺れて、まるでホウキで地面をはくようだ。
「オレ、ご主人から、独立する」
「なんだって!」
びっくり仰天のニャン太。
「だっ、だって、ゴハン、どうすんの?」
「オレは、毎日ご主人を見てるからな。毎朝、背広着てネクタイ首にしめて、カバンもって家を出る。そうして、夜、帰って来て、子供と遊んで、オレの頭をなでるんだ。そうするってえと、ママさんが、銀行へ行ってお金をもってくるんだな。オレたちは、それで食ってるってわけだ。なぁ、わかったか?」
ニャン太の頭の上に ? ハテナのマークが二つ、三つ。ますますなんだかよくわからないニャン太。
黒ネコニャン太の物語15 - 友達同士
人間の笑い顔について考えたところで、われらネコ族はというと、これはなかなか難しいと、ニャン太は考える。顔に出さないのがわれらネコ族だからである。
それでも、ネコにだって人間なみに心はある。いや、手軽に顔になんぞ出さない分、胸におさえているものは、人間以上かもしれない。
居心地のいいおばあさんの抱っこ。そこから降りると、ニャン太はいつもの公園へと向った。
「おーい、ニャン太―」
いつもの公園の、ちょうど入り口あたりにポチがいる。
ポチといっても、あの嫌な犬族じゅあない。りっぱなネコである。本当はポーチという。変な名前だとニャン太は思う。もっともニャン太は、ポチとは呼ばないし、ましてや“ポーチ”なんて、長ったらしくて、面倒だと思っている。
「怪獣!」
と、ニャン太は呼ぶ。
“怪獣”は、血統書つきの、買うとかなりのお値段が張るネコである。それだけに、ニャン太とは少々毛並みが違う。ちょっとムラサキがかった毛が、ニャン太の二倍から三倍ほども長い。フサフサとしている。フサフサした毛が全身に行きわたっている。だから、顔まで毛でいっぱいで、その毛が顔の横にまではみ出している。
そして、その顔が、以前たけしと一緒に見たテレビに出てくる怪獣に似ている、とニャン太は思うのだ。怪獣がどこに住んでいるのか、いつごろからこの辺りにいたのか、ニャン太は知らない。知りたいとも思わない。ふと気がつくとそこにいて、友達になっていた。
「おい! そう呼ぶの、やめろよ!」
と、怪獣のポーチが言う。
「そうか、わかった」
と、素直なニャン太。
「今日はやけに早いな、怪獣!」
「だからっ、それ、やめろって・・・。おまえ、話し聞いてないだろ」
怪獣が、ムッとしている。
「あのなぁ、恋するネコに,“怪獣”なんていっていいのかよー」
「だれが、恋するネコなんだい?」
「オレ様だ、オレ!」
心持ち鼻をもち上げた怪獣のポーチ。照れながらいばっている。たとえネコであっても、そこはやっぱり友達同士。浮いた話の一つぐらは黙ってきいてやる、とニャン太は思っている。
黒ネコニャン太の物語14 – やさしい笑顔
やさしい笑顔のおばあさん。
「ニャーーン」
と、ニャン太がおばあさんの顔を見ながら猫の声をかける
と、ニッコリ笑顔が上からニャン太をのぞき込む。
そのまましゃがんだおばあさん。そのひざに前足をかけて、グイッとからだを寄せながら鼻を当てて、あいさつしようとしたニャン太。だが、ヒョイとおばあさんに抱っこされてしまった。
「ニャンちゃん、何してたの・・・」
犬のシロとケンカしようとした・・、とは言えないニャン太。抱っこされながらおばあさんの顔をまじまじとながめた。なぜか安心する。なぜかうれしい。なぜか、眼に涙がたまる。そうして、なぜか自然に、のどがゴロゴロなりだした。
「ニャーン!」
おばあさんの手がニャン太の頭をなでる。その手を払うようにからだをよじるニャン太。
顔を近づけ、おばあさんの鼻に自分の鼻を当ててみようとこころみる。
なかなかうまくいかない。
「まあ、まあっ、今日はどうしたの。甘ったれさんだねぇ」
ニコニコ笑うおばあさん。
ニャン太が思うに、どうも人間の笑い顔はひと通りではないようだ。たけしなんぞは、いつもニッと笑う。笑う方が短い。おばあさんのは違う。いつまでもニコニコと笑って笑い方が長い。
たけしのニッは、要は自分がよければそれで満足なんである。相手がニャン太であろうがなかろうが、そんなこと知っちゃいないって感じだ。
おばあさんのニコニコにはちゃんと相手がある。その相手というのはニャン太である。ニャン太に向けるニコニコである。そうしておばあさん自身も満足してよろこんでいるようだ。
この違いはなんだ。顔に刻んだ、シワの数だけの問題じゃない。
自分だけがいいたけしのニッと、相手をよろこばせるニコニコで自分もよろこんでいるおばあさん。これは絶対に、“同じ笑い顔”なんかじゃあない。
だって、たけしのニッは自分勝手なだけで安心できない。何をされるかわからない。ちと、不気味でさえある。
おばあさんのニコニコはちがう。ホッとする。安心する。気持ちが和む。 だから、ニャン太は、安心して抱っこされていた。長いシッポがユラユラ揺れる。
黒ネコニャン太の物語13 - 縄張りを歩く猫
自分の縄張りを歩くニャン太。あちこち鼻を近づける。くっつける。クンクンやってニオイを確かめる。すりすりと下あごをこすりつけ、安心のニオイをかいで満足する。自分の縄張りはあくまで守る。ニャン太は、大真面目だ。
ただしこれからは、その縄張りを少しだけ減らすことになりそうだ。なぜって、いきなり縄張りに越してきた犬のシロは、やっぱり怖い奴だ。残念だが奴には勝てそうにない。ならばこっちから避けるしかないからだ。
大きな石垣の家が見えた。立派な家だ。何度も前を通ったので、よく知っている。ゴツゴツした石垣に沿っていくと、曲がり角の石が、道にはみ出している。
「おやっ?」
と、いってニャン太は立ち止まった。鼻を近づけてクンクンやった。初めてのニオイだ。一大事件だ。さっそくからだ中を何度もこすりつけて、ニオイをつけた。もう一度鼻をあてた。今度は自分のニオイだ。ニャン太は、ホッとした。
ニャン太は歩いていった。向こうから知った顔がくる。うれしい顔だ。ニャン太のシッポが、まっすぐにピーンと立って、ブルブルとふるえた。
おとなりのおばあさんだ。いつもニャン太のことを“ニャンちゃん、ニャンちゃん”という。頭をなででくれたり、抱っこしてくれたり、前足を取って、人間の赤ちゃんをあやすようにして、遊んでくれたりもする。おやつだってくれることもある。
そんなおばあさんだが、ときには面倒になることもある。頭を撫でてくれるのは嬉しいが、気分の乗らないときもあるし、それにこっちにだって他にやることがある。
そんな時は、そこはやっぱりネコだけに、ニャン太は知らんぷりして行ってしまう。
「ニャンちゃん、お散歩かい?」
おばあさんが、ニッコリしている。
黒ネコニャン太の物語12 - 逃げ足の速いネコ
白の怖ろしい顔がニャン太を睨む。そして、
「ワンワンワン! ワンワンワン!」
と、けたたましく吠える。
うなり声をあげて飛びかかろうとするたびに、シロのクサリが、ガチャガチャなった。睨んだ眼つきと口から見せた牙は、恐いなんてもんじゃあない。垂れたよだれもいっそう凄みを増している。その声。その顔。やっぱり、シロは恐かった。
恐いと思うとよけい眼が離せない。ニャン太は、おずおずと後退りしていった。ゆっくりと眼をそらした。すると、一目散に逃げ出した。逃げるとなると力が入った。飛んでくように足が速い。不思議だ。シロがますます、すごい勢いで吠えだした。その声だけがニャン太を追っかけてきた。
走った後のニャン太は、肩で息をしていた。どっと疲れた。はっきりいって恐かった。フラフラしながら少し歩いた。ちょっと立ち止まり、ペロペロと前足をなめた。そのまま道にペタリとしゃがむ。後ろ足を持ち上げて、お腹のあたりをペロペロやった。これでようやく、気持ちが落ち着いた。
シロはまだ吠えている。
(ふん、しつこいやつだ)
それでも、だんだん敵も疲れたらしい。途切れ途切れになってきた。そうして、ついにむなしく、冬の空に吸い込まれていった。
ニャン太は、縄張りを歩いていた。長いシッポがだらりとたれて、歩くたびにゆらゆら揺れた。ニャン太の頭には、もうとっくにシロなどなかった。いやなことはさっさと忘れる。それがニャン太の得意技だった。
黒ネコニャン太の物語11 - 緊張するニャン太
ニャン太は、ジワリジワリと犬のシロに近づいて行った。と、シロの耳がピクッと少し動いた。ギクリとするニャン太。
全身に緊張がはしった。自分の心臓のドキドキが自分で聞こえる。自慢のヒゲがビリビリする。下を向いたままのシッポがピーンと張っている。大きく見開いた眼も真ん丸だ。からだが石になったように動けない。まるで、金縛りにあったみたいだ。
ついに、シロが眼を開けた。
「ウゥーッ、ウゥーッ」
と、ニャン太をにらんでいる。
(おっ、おまえなんか、平気さ)
どうにかふんばったニャン太。だが、
「ワンワンワン! ワンワンワン!」
と、シロが吠えだしたときは、もうダメだった。
からだ中が小刻みに震える。破裂しそうな心臓が大騒ぎしている。四本の足も、ガタガタいって使いものにならない。知らないうちにシッポが股の間に隠れてしまった。まったく困った。情けないことになった。
(こっ、恐くなんかないぞ・・・。だっ、だって、ボクは、ライオンの・・・)
と、自分にいい聞かせたとき、すでにニャン太は、もとのネコだった。
カースケの前では、確かにニャン太はライオンだった。なにせカースケは吠えないし恐い顔もしない。どちらかといえば、ニャン太のほうが、少しは強いかもしれない。
だから安心してライオンにもなれた。けれども、シロは、カースケじゃあなかった。
黒ネコニャン太の物語10 – やる気満々
屋根から降りたニャン太。勇気を身体にみなぎらせ、道の隅っこを歩いて行った。
ようやく、シロのいる家が見えてきた。ニャン太は、ジロリとにらんだ。ヒゲがピクピクする。
やる気満々だ。見ると確かに、庭にシロがいる。クサリにつながれたまま、丸くなって気持ちよさそうに寝ている。
(どうやら敵はお昼寝だ。いい気なもんだ)
足音をしのばせた。気が引き締まる。やけに胸の中がさわがしい。ふと立ち止まり、ちょっと道に腰を下ろす。ペロペロとからだをなめて、緊張をほぐした。でもすぐに顔を上げた。
道の向こうにしロがいる。フーッと凄んでみせたが、相手は少しも気づかない。
「ふん、めでたいやつだ」
ニャン太は、蚊の鳴くような声でののしった。
ドキドキしながら、ゆっくりと、静かに進んだ。とうとう、敵の目ヤニが見える所までやってきた。まじまじとながめた。こんなに近くで見るのは初めてだ。
シロは、それほど大きな犬じゃない。きっと雑種に違いない。それでも、憎ったらしい顔は変らない。
(こいつ、絶対に利口じゃあないな)
ヒクヒクとニャン太の鼻が動いた。
(敵は、安眠をむさぼっている。やるなら、今だ!奇襲攻撃をかけて驚かしてやろうか。
なに、卑怯だって? かまうものか、どうせ相手はシロだ。いきなり飛びかかって、鼻でもひっかいてやればいいんだが・・・)
ニャン太は考えていた。それで迷った。やけにからだが固くて、動きにくい。けっして恐いんじゃない、と自分では思っている。
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